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明日へのベクトル「消費者の声をビビッドに伝えているか。」マーケティングプランナー 臼井 栄三

2017.12.20
 今から十数年前のある日、東京都世田谷区のカフェでミニコミ誌の展示会が開かれた。そこに、3人の女性たちによる手づくりの本が並べられた。本のタイトルは、“Masking Tape Guide Book”。文字通り、マスキングテープを生活の中でどう楽しく活かすかを中心に構成されていた。この後、本は四百部以上が売れている。
当時、マスキングテープは建築現場を中心にして、塗装のときに塗らない部分を保護するために使われていた。車両を塗装するときにも使われ、主に工業用に利用されていたわけだ。3人の女性たちによる本は、そんなマスキングテープを日常生活の中の雑貨として、かわいく気軽に活用する提案をしていた。
彼女たちはマスキングテープを製造していた国内の主要8社に、この本を送っている。各社に雑貨市場への進出の可能性を提示したわけだ。しかし、カモ井加工紙(以下、K社)以外は、どこも雑貨としてのマスキングテープの事業化には取り組もうとしなかった。
K社は3人の女性たちが工場見学を希望するのを受け入れ、彼女たちとのやり取りを経て、雑貨用途のマスキングテープを開発していく。2008年2月、ギフトショーで文具・雑貨向けマスキングテープ「mt」を発表。翌月に「mt」の発売を開始している。
誕生して十年足らず。文具・雑貨としてのマスキングテープ市場は大きく成長した。インテリアなどにも使われ、いまも成長を続けている。「mt」は、押しも押されもしないナンバーワン・ブランドだ。
マスキングテープの例は、イノベーションの鍵を実は消費者が握っていることを示している。消費者の声に耳を傾け、鋭敏に対応したK社が市場の勝利者になった。
広告会社の役割のひとつに、消費者の声をクライアントに伝えることがある。消費者ニーズを知らせ、対応へのアドバイスをすることがクライアントの成長を助ける。真のパートナーとして、広告人が取り組むことは実に多く、しかもその役割は極めて重要なのだ。


マーケティングプランナー
臼井 栄三