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明日へのベクトル「生活者の価値観を、どれだけ重視しているか。」マーケティングプランナー 臼井 栄三

2018.2.15
SNS上で話題になったので、ご存知の方も多いかもしれない。今年の節分の売出しで、兵庫県のヤマダストアーが出した折込チラシのことだ。スーパーマーケットのチラシといえば、びっしりと売出し商品と価格が並んでいるのが一般的だ。
しかし、ヤマダストアーのチラシはかなり異なっていた。紙面の約2割を、意見広告のような文章が占めている。大きく「もうやめにしよう」のキャッチフレーズ。「売上至上主義、成長しなきゃ企業じゃない。そうかもしれないけど、何か最近違和感を(後略)」とコピーが続く。そして、昨年あちこちで大量に廃棄された恵方巻について、ヤマダストアーの考え方と対応について、文章は展開していく。
「のばせのばせ、ふやせふやせの店舗数と恵方巻の大量生産で数は膨れ上がり続けています。食材の原価だけで考えてるからそんなことになるんやと思う。」この後、海産資源の減少に言及し、ヤマダストアーは「今年は全店、昨年実績で作ります」と言い切っている。さらに、「売れ行きに応じて数を増やすことを今年は致しませんので、欠品の場合はご容赦くださいませ」と締めくくっている。
この広告に、SNS上で称賛の声が広がった。地方の、決して大きくはないスーパーのチラシでは異例の反響だ。多くの人が「何かおかしい…」と感じていたことに正面から向き合い、スーパーとしてできる範囲で取り組んでいく。その市民感覚が人びとの共感を呼んだのだろう。売上げを大きく伸ばすよりも、食品ロスを減らし、それが同時に少しでも海産資源を守ることにもつながっている。
ヤマダストアーは自分たちを「ちょっと変なスーパー」と規定しているが、全く変ではない。売上アップの大号令の下、大量販売をめざし、売れ残りを大量廃棄するシステムのほうがはるかに変なのだ。たとえチラシ1枚でも、生活者はモノと価格だけを見ることはなくなっている。自分たちと同じ価値観を持つ企業を見きわめようとしている。ヤマダストアーのチラシが伝える意味は、とても深い。


マーケティングプランナー
臼井 栄三