『明日へのベクトル』 先入観や前提に縛られていないか。 マーケティングプランナー 臼井 栄三
エドワード・デ・ボノ(1933~2021)といえば、創造的な考え方を広めたことで知られている。彼は医師であり、心理学者であり、作家、発明家、コンサルタントでもあった。デ・ボノが唱えた水平思考は、わが国でも広く知られている。
デ・ボノは米国の自動車メーカー、フォード・モーターから相談されたことがある。相談内容は、どのようにして欧州での競争でフォード車が優位に立てるかというものだった。広告会社なら、ブランド戦略やさまざまなキャンペーンを提案するようなケースだ。
「どうすれば、私たちフォード社の車がいっそう魅力あるものになるでしょうか」という質問に対し、デ・ボノは視点を変えた問いで返したという。「どうすれば、フォード車に乗る人の生活そのものを快適にできるでしょうか?」
デ・ボノが提案したアイディアは、フォード・モーターにとって画期的なものだった。彼のアドバイスは大都市の都心部で駐車場事業をすることだった。大都市の人も車も密集した中心部の駐車場を買い上げ、それらをフォード車専用の駐車場にするという提言だった。
提案を受けたフォード・モーターの面々は驚いた。自社を自動車メーカーとしてしか捉えていなかったため、駐車場事業など思いもしなかったのだ。結局デ・ボノの提案は採用されなかったが、もし採用されていたら、欧州の自動車勢力図は変わっていたかもしれない。
デ・ボノの提案は、示唆に富んでいる。私たちは企業から相談を受けたとき、従来の広告の枠の中だけで解決策を見つけようとしていないだろうか。最適な解決策は、枠の外にあるのかもしれない。私たちが抱く先入観や前提を取り払うことが大切だ。時代はいま、大きな転換期にある。当然と思われていることを疑い、問題をその根源から捉え直そう。広告が変わっていくいま、真の創造性が求められている。
マーケティングプランナー
臼井 栄三