『明日へのベクトル』 広告人の想像力が問われている。 マーケティングプランナー 臼井 栄三



社会人なら、ほとんどの人が履歴書を書いた経験を持っているだろう。
この履歴書に、最近ちょっとした異変が起こりつつある。
履歴書から性別欄をなくす動きが本格化するかもしれない。
社会には、トランスジェンダーの人たちのように自分の性別を明示するのを苦痛に感じる人がいる。
履歴書に性別欄があることで、採用時にそんな人たちへの差別が生まれる可能性も否定できない。
性別によって採用で差をつけることは、男女雇用機会均等法で禁止されている。
それならば、就職活動で自分の性別を記載しなければならない合理的な根拠はないわけだ。
今年の春から夏にかけて、履歴書にある性別欄の削除を呼びかける署名には一万人以上の賛同が集まった。
このような動きの中で、一般財団法人日本規格協会はJIS規格の参考例として公表していた履歴書の様式例を
この7月に削除している。これからどんな履歴書が増えていくのか、企業や団体、人びとの意識変化を知るうえでも注視したい。
履歴書の性別欄をめぐる動きは、社会の多様化を表わす一例に過ぎないだろう。
ダイバーシティ(多様性)がキーワードになっている現代。
少数者にあたる人たちがどのように感じ、考えるのかを、私たちは常に意識しなければならない。
これまで広告は、主に多数の人たちにメッセージが届くことを中心に企画され、展開されてきた。
まさに「広」告だったのである。
しかし、これからは多数ではなく、一人ひとりを相手にしたメッセージが重要になっていく。
社会は個人個人の集まりであって、一括りにしては捉えられない。
たとえ「狭」告になったとしても、メッセージの本質が共感を呼ぶものであればそれは必ず広がりを持つ。
大切なのは、広告人の他者への想像力なのである。
さて、あなたは立場の違う人たちと、どれだけ同じ思いを共有できるだろうか。

マーケティングプランナー  臼井 栄三