『明日へのベクトル(連載111)』 AもBも両立させるアイディアと実行力を。 マーケティングプランナー 臼井 栄三
「あちら立てればこちらが立たぬ」という言葉がある。一方を選ぶと、もう一方の立場がなくなり、両立が難しい場合だ。私たちの日常でも、AかBかどちらを選択するか悩むことはよくある。
こんな状態を、ビジネスではトレードオフという。二つの物事があり、一つを選べば他方が成り立たないケースを指す。たとえば商品の品質と価格は、トレードオフの関係にあるとよく言われる。良い品質を追求すれば、コストが上がり価格は高くなってしまう。安い価格を追求すれば、品質を犠牲にせざるを得ない。企業としてどちらを選択するか、悩ましいところだ。
だが、本当に品質と価格はトレードオフの関係なのだろうか。もう一度、原点から考え直してみることも必要だ。
品質を下げて価格を安くしても、目の肥えた顧客が多い現代ではそんな商品は売れないかもしれない。結果としてその商品は多く生産できずに高コストになり、市場から撤退せざるを得なくなる。
逆に、初めのうちはコストが合わなくても、高品質のものを届けたらどうなるか。最初は利益が出ないけれど、顧客が品質の良さを認めて、その商品はやがて大量に売れるようになるかもしれない。
SNSなど生活者が情報を自ら広く受発信する現代では、自分たちがトクする情報は驚くほど速く行き渡る。その結果、多くの人に選ばれた商品は大量生産が可能になり、生産コストがぐんと下がる。商品の品質と価格の両方を求めることは両立できることになる。
両立しそうもないと思えるものを、新しい価値を生むことで両立させてしまうことを、トレードオンという。DXの浸透とAIの活用などで、トレードオフと考えられていたことをトレードオンに変える流れは今後ますます強まるだろう。AもBも両立させるような、トレードオンを実現するアイディアと実行力が私たちに求められている。
マーケティングプランナー
臼井 栄三