『明日へのベクトル(連載118)』 「ポスト真実」の時代に、求められる知恵。 マーケティングプランナー 臼井 栄三
ポスト真実(post-truth)という言葉を耳にしたことはあるだろうか。客観的な事実よりも、感情に訴える方が強い影響力を持つ状況を指す。インターネットやAIなどのITが進展する中で、「ポスト真実」の様相はますます濃くなっている。
2024年は、ポスト真実が私たちの地域や仕事にも強く関係していることを実感した年だった。こう書けば、アメリカ大統領選や日本での首長選などを連想した人もいるだろう。真偽不明の情報が多くの人の感情を刺激し、広く拡散されていくのを目の当たりにした。
選挙ばかりではない。今年、僕が衝撃を受けたのは徳島大学発のベンチャー企業「グリラス」の破産だった。食用コオロギの生産や商品開発を手がけ、「徳島から世界の食糧危機に挑む」と各方面から注目され、期待もされていた。
2020年に、グリラスは無印良品へコオロギパウダーの提供を開始。「コオロギせんべい」がヒットするなど、業績は順調なように見えた。しかし2022年11月、徳島県立高校の生徒にコオロギパウダーを使った給食を提供したことから、雲行きは急変する。
ネット上で実にさまざまな情報が広がっていった。その中にはとんでもない誤りやデマも多かったし、悪意に満ちた声もあった。SNSは投稿すると、その先のコントロールが利かない。やがて陰謀論と結びつき、国はコオロギの食糧で人口削減計画を進めているといった話にまで広がっていった。
グリラスの悲劇は、遠い世界の話ではない。私たちは広告主のパートナーとして毎日仕事をしている。広告主が似たような状況に置かれたら、私たちは何ができるのだろうか。ポスト真実の時代、私たちの知恵と実行力が求められている。
マーケティングプランナー
臼井 栄三