明日へのベクトル 次の社会へ、知恵をカタチに。 マーケティングプランナー 臼井 栄三



「注文をまちがえる料理店」の話を聞いたことがあるだろうか。ホールスタッフ全員が認知症の人たち、という期間限定のレストランだ。注文を忘れたり、間違えたりすることがあるかもしれないけれど、客はそれも楽しんでしまおうという考え方がベースになっている。昨年6月に関係者を集めて、2日間のプレオープン。このプロジェクトはSNSなどで話題を呼び、反響は海外にも及んだ。
そして「注文をまちがえる料理店」は、今度は一般の人たちを対象に、昨年9月に再びオープンする。場所は東京・六本木。3日間の期間限定営業だ。もちろん18名のホールスタッフ全員は、認知症を抱えている。この企画ではクラウドファンディングも実施され、目標額800万円に対して支援金1,281万円が集まったという。企業の賛同も得た。料理店への来客は引きも切らず、大盛況だった。
店名が示す通り、営業中に間違いが起こるのはしょっちゅうだった。しかし、客はそれを寛大に受け入れていたという。店内はユーモアがあふれ、おおらかな雰囲気に満ちていた。
「注文をまちがえる料理店」には、周到な戦略があった。まず、なによりも料理が美味しく、店内が明るくおしゃれであること。料理はプロのシェフが担当。社会的にいいことをしているからといって、甘えは許されないという覚悟が感じられる。さらに、注文に間違いがあっても値段の間違いはしてはならない。このため、料理は一律1,000円にした。また、わざと注文を間違うような作為はしないという決意にも、プロジェクトへの真摯な姿勢が感じられる。
超高齢社会の中で、いま私たちの対応力が試されている。「注文をまちがえる料理店」の取組みは、多くの示唆を与えていないだろうか。障がいを持つ人も、高齢者も、互いに認め合いながら社会に役立っていく。ダイバーシティを大切にした社会の実現のために、私たちは何ができるのか。業種や分野の垣根を越えてさまざまなアイディアをカタチにできる広告人は、もっと知恵を絞ってほしい。

マーケティングプランナー
臼井 栄三